Ladies and Gentlemen dream
わかっているよ
ある所に、小さな食事処があった。20人も入ればいっぱいになるような広さの店だ。
狭いのには訳がある。というのもこの店、店員も料理人も含めて2人人しかいないのだ。2人人で切り盛りできる量には限界がある。よって、必然的に店のスペースも狭く造られているのだ。
しかし、たとえどれだけ狭くあろうと、この店の味は中々の逸品であると評判だった。
昼から夜まで。すべてのメニューに手を抜くことはなく、しかも狭い店であるからこそ成り立つ客人とのコミュニケーション。そこからメニューにないものでも作ってくれる店長の気前の良さ。味はもちろん秀逸。
店の様子はモダンな物を一式そろえ、落ち着いた雰囲気をかもしだす。そんな店だ。
だが、この店に入ってくる客は少なく、やって来るのは舌の肥えた者や、落ち着いた雰囲気を求める者たちだった。知る人ぞ知る、隠れた名店と言うものだった。
何故人が来ないのか?その理由はこの店の建っている場所が裏通りにあるため、ではない。
では何故なのか。
その答えは食事処、店長、タイランに理由がある。
彼と客のやり取り、それを見れば全ての理由がわかる。
昼。今、タイランの店に一人の男性がやってきた。
この男性、店にやって来るのは初めての客である。
ドアを開け、店に入れば、カウンターから件の店長、タイランとナマエが声をかける。
「いらっしゃいませ」
その言葉を受けた男性は、急いで回れ右をして店から出、いや、逃げ出そうとした。
「おい、お客さん!ちょっと待ってくれ!?」
「ひいぃッ!?すいません、見逃してくださいぃぃ!!」
店長の呼びかけむなしく、客は悲鳴を上げながら店から逃げ出した。
「またか、」
「またですね」
ナマエはため息をつく。
客が来ないのには理由がある。というのもこのタイラン。顔がとてつもないほど怖かったのだ。
鋭く尖った釣り目に細く伸びた眉。無数の傷。シャープな褐色顔。そして低くどすの利いた声。
どれをとっても、初めて会う者にヤクザと思わせるのに十分だったのだ。
その結果。タイランの店に、一見の客が来ることはほぼなく。店長の知り合いか、常連の客しかこない店となったのだ。
とある町の、とある食事処。小さな店。今日もそこの店長は自分の見た目と闘いながら、ひっそりと店を開いている。
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